SSブログ

「ひゅうが」と「日向」 [軍艦]

 さて、私は宮崎県の生まれである。昨今では東国原知事の努力により知名度が上がりつつあるが、かのエビちゃんこと蛯原友里嬢も宮崎県出身である。少し嬉しい。

ところで、最近宮崎県生まれならちょっと、さらに艦船ファンならかなり耳に残るであろうニュースがあった。

去る8月23日、横浜のIHI造船所にて一隻の海上自衛隊新型護衛艦が進水したというのである。そしてその際に名づけられた名前が「ひゅうが」。そう、宮崎県の昔の国名「日向」なのである。そして、この新鋭護衛艦の姿が実に航空母艦、俗に言う空母と見紛う姿であった。

実際、この艦はこれまで30年にわたって「ヘリ護衛艦」として活躍してきた大型護衛艦「はるな」型の後継として建造されたものである。「はるな」では艦尾にヘリが1機離着陸できるスペースの飛行甲板が設けられていたが、「ひゅうが」では最大4機が同時発着が可能だそうである。また「はるな」では無理だった回転翼を展開した状態での格納庫内メンテナンスが「ひゅうが」では可能。飛行甲板には格納庫へ通じるエレベーターが中心線上に2器、飛行甲板の右側にはステルス性を持ったアイランド(艦橋)が設けられている。ちなみに完成予想排水量は、「はるな」の2倍を越えるそうである。加えて艦隊旗艦としての能力も持たされるそうで、通信能力や戦闘指揮能力はかなりのものであることが予想される。これまで通例だった大型護衛艦の命名基準である「日本の山の名前」ではなく「国の名前」が初めて採用されたのも、これまでとは桁違いに大きな艦であるとともに艦のコンセプトも全く新しいものであることがその理由であるとのことである(写真は進水直後のもの。Wikipediaより)。

これらの事実を聞いて、艦船ファンたる自分は反応せずにはおれなかった。というのも、かつて戦中の帝國海軍にその名も「日向」という戦艦が存在したからである。この「日向」、有名な「大和」「武蔵」ほどの知名度は無いが、伊勢型戦艦の二番艦として建造され、太平洋戦争中もアメリカ反攻のきっかけとなったミッドウェー海戦にも参加した歴戦の艦である。このミッドウェー海戦では同型艦の「伊勢」とともに日本海軍初のレーダー搭載艦として参戦するといった逸話も残している。

しかし「日向」が知られているのは「航空戦艦」と呼ばれる艦に改装された事実によるものである。この航空戦艦とは、ミッドウェー海戦で4隻もの主力空母とベテランパイロットを失い航空戦力に大ダメージを受けた海軍が、少しでも航空戦力を確保しようとして出したアイディアだといわれている。結果、「日向」と「伊勢」は艦尾にある砲塔2器を撤去。そこに格納庫を持った飛行甲板を作り、カタパルトで攻撃機を発艦させるという構想の改装が行われたのである。

この改装は想定した利益はもたらさなかった。搭載しようと思っていた新型機の開発が遅れたことなどが影響し、実際には思ったような運用はできなかった。ここから発進した攻撃機が海戦に参加したことはあったとも無かったとも言われているが、現実的には格納庫に飛行機ではなく補給物資を積み、前線の兵士への補給活動に使われたのが殆ど。しかし飛行甲板周りに備えられた対空兵装は強力で、有名な「小沢囮部隊」の1艦として参加した「日向」はよく善戦し生き残り、終戦前に広島の江田島沖で空襲により大破着底するまで勇戦したのであった。下は終戦後に撮影された「日向」である。艦尾の平坦に見える部分が飛行甲板である。

ここまで見てみると判るように、「ひゅうが」と「日向」では、航空機搭載を前提とした艦であるという共通点があることがわかるであろう。旧海軍の空母名は竜や鳳といった伝説の動物から取られているが、「ひりゅう(飛竜)」や「たいほう(大鳳)」といった名前ではなかったということは、やはり海上自衛隊も「ひゅうがは空母なのではないか」という批判を考慮したか。今回の命名は自衛隊員からの公募をしたとのことであるが、国の名前から命名するのであればこれほどふさわしい名前もあるまい。「ひゅうが」は平成21年3月に竣工するとのことであるが、二番艦が同年8月に進水するそうである。二番艦の名前がもし「いせ」だったとしたら、かの航空戦艦からの生まれ変わりとして期待されていることは間違いないであろう。

ところで、宮崎にまつわる艦がもう一隻ある。護衛艦「おおよど」である。宮崎市内を流れる大淀川から取った名前で、「ひゅうが」の僅か1/6の排水量しかない小型護衛艦「あぶくま」型の1艦である。この「おおよど」にも帝國海軍には「大淀」という軽巡洋艦があり、言わば二代目である。

「大淀」は多数の潜水艦を率いる旗艦として設計され、強力な通信設備と、多数の偵察機を短時間で発艦させるために艦の後部に巨大なカタパルトを備える特殊な艦であった。航空機搭載能力と通信設備、コンセプトは寧ろ「ひゅうが」に近い。さらに、大戦末期にはその通信設備を買われて最後の連合艦隊旗艦に選ばれるという運命のフネである。これもまた「ひゅうが」を彷彿とさせる。しかし残念ながら「おおよど」には航空機搭載能力(ヘリ着艦は可能)も強力な通信能力も無い。

宮崎絡みの艦には「おおよど」を除き航空機に縁があるようである。今回「ひゅうが」には輸送艦「おおすみ」型の時のように「空母論争」は起きなかった模様だが、艦首から艦尾までの全通甲板を持ち、従来の護衛艦のように艦砲を持たない艦型は、「空母かどうか」などという議論が陳腐なほど空母そのものであろう。防衛省は飛行甲板には耐熱構造は無く、垂直離着陸可能なVTOL機の発着はできないと説明しているようだ。しかし必要な対策を施せば将来的にヘリ以外の航空機の発着が可能な規模を持っている。

問題はこれをどう使うか、である。防衛省もこの艦を災害発生時の指揮管制機能基地として利用する旨の説明をしている。こういったことは今後必要となってくるであろう。我々国民も税金が役人の恣意で事が進まないように慎重に目を注がねばなるまい。

いずれにせよ、「ひゅうが」竣工の暁には是非間近で見たいものである。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 2

コメント 2

そうてん

こんばんわ。
私は今回の「ひゅうが」を海上自衛隊の独自空母保有への一歩だと考えています。なんせあの「おおすみ」型以上に空母らしくなっていますからね。海上自衛隊が創設当初からかなりかつての帝国海軍から受け継いだ伝統などが多いことを考えればかつての機動部隊復活を願うのは至極当然だと思いますし、領海やEEZを守るうえでも空母は必要だと思います。それでは^^
by そうてん (2007-09-02 00:58) 

AURA

>そうてんさま
コメント&niceありがとうございます。

個人的には、「ひゅうが」は日本の国情を考えた上での最大限の空母ではないかと思っています。戦闘機、攻撃機を発進させる空母としてではなく、あくまでも対潜哨戒母艦としての空母として。

また日本は航空自衛隊、海上自衛隊は島国であることから必要と考えていますので、その意味でもこのクラスのフネの保有は寧ろ遅かった位ではないかと思います。
by AURA (2007-09-02 22:10) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。